著者のドリー・クラークは存じておらず、本屋でたまたま手にとって読み始めた本だったが、人生やキャリアにおける戦略を考える上で、重要な示唆を多く示してくれる良い本だ。
私にとっては、忙しい日々を送っているとついつい忘れてしまいがちだが重要なポイントを思い出させてくれる、麻姑掻痒な本だと感じた。
本書を通じて示されている最も重要なメッセージは、「短期的な小さい変化が、長期的には大きな変化につながっていくことを忘れるべからず」ということである。
茹でガエルとしてよく例えられるが、人は急激な変化は強く感じ取ることができるが、徐々に変化していくとなかなかその変化を感じ取りにくくなってしまう。
しかし、変化は確実に起きているのであるから、客観的に自分を捉え、日々の少しずつの変化こそが長期的に決定的な変化へとつながっていくのだということを認識することができれば、自身の人生における戦略を大きく改善することができる、ということが、本書で通底する一貫したメッセージだ。
そのメッセージを根底に置き、より具体的なポイントが示されている。
僕が特に重要だと感じ、ぜひ今後も心に留めておきたいと思った点は、以下の3つである。
1つ目は、「忙しいということは、人生をコントロールできていないという認識を持つ」ということである。
僕自身もよくそう感じるのだが、忙しいということは自分が社会から求められているということを示すシグナルであり、ある種の安心感を与えてくれる。充実感を覚え、それに満足してしまうことがある。
一方で、長期的な視点に立ったときに、忙しいことが必ずしも良いことだとは限らない。忙しいということは、短期的な成果を出すことに繋がる活動を多くしていて、長期的な視点に立った投資をできている訳ではないことが多いからだ。
そのため本書では、余白を生み出すことの重要性を理解すること、そしてそのためには「たとえ魅力的な提案であっても」ノーという勇気を持つこと、という主張がなされている。
僕などはついつい忙しくないと何も生み出していない気がしていまい変な罪悪感をおぼえてしまうことがあるだが、そもそもそういった「常に動いていないといけない」マグロのようなメンタリティーから抜け出してもやっぱりOKだな、と改めて感じさせてくれたことが本書を読んでよかったポイントの1つである。
2つ目は、「成長は指数関数的に訪れる」ということだ。このことを少なくとも頭で理解しておくことは非常に重要である。
なぜなら、僕の考えでは、人は加算的な変化は直感的に感じ取ることができるが、指数関数的な変化を直感的に感じ取ることは難しいためである。
加算的な変化は、変化のメカニズムがわかりやすい。アウトプットが2倍になっているということは、基本的には時間や労力といったインプットが2倍になっているか、もしくはインプットをアウトプットに変換する効率性が2倍になっているかのどちらかであり、変化の理由を直感的に理解しやすい。
「1年間でここまで変化したから、更に1年後も同じだけ変化するだろう」といった感覚だ。
一方で、指数関数的な変化はそのメカニズムが理解しにくい。しばらくの間は、表面的には大きく変化が訪れていないように見える。そして時間が経つと、いつの間にか急に大きな変化が起きていて、その変化率はどんどん大きくなっていくのだ。
理解にしにくいからこそ、努力を諦めてしまうことにも繋がる。最初の方は、努力しているのに思うように成果が上がらない(ように見える)ためだ。
自身を成長させるためには、頑張り始めて最初の方は「まだ変化率が小さい段階だな」とメタ認知し、将来的に成長が爆発することを理解することが肝要である。
3つ目は、「打席を増やすことの重要性」だ。
これは僕自身が最近特に反省していることなのだが、そもそも打席に立たないと何も始まらない。成果を出している人は、その裏に数えきれないほどの圧倒的なアウトプットをしており、その上で人に知られるような成果を創出しているのだ。そこにたどり着くためのアウトプットは、世に知られていないだけである。