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学びの集積

0003冊:Originals (アダム・グラント著、三笠書房)

ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代 アダム・グラント(著/文) - 三笠書房

オリジナリティとは何か。そしてオリジナルな人と、そうでない人とを分ける要素は何か。こういった、オリジナリティに関わるテーマは多くの人が並々ならぬ関心を持っているだろうが、なかなかスパッと明快に説明することが難しいテーマである。

何故ならオリジナルな人は、その定義からして他の人には真似できないような考え方ができるからこそ、オリジナルだからである。明快に説明できるのであれば、皆が同じように考え、行動できてしまう。オリジナリティというものはそもそも複雑性を内包しているテーマなのだ。

本書はそのテーマに切り込んでいくのだが、本書の副題として「誰もが『人と違うこと』ができる時代」と掲げられている。オリジナリティが複雑なテーマである一方で、非常に限られた、才能や運に恵まれている人たちだけが獲得できる物ではない、と言っているのである。タイトルにチラリと目をやるだけで、面白そうな本だと思わせてくれる。

 

読み進めていくと、本書が他のビジネス本とは一線を画す良書であることがわかってくる。タイトルの期待を裏切らないのだ。オリジナリティというテーマの複雑性をしっかり説明しながらも、それが誰もが(心掛け次第で)手に入れることができるものであることを、科学的な裏付けを示しながら、明快な筆致で描いてくれる。

僕自身が特に面白いと思ったポイントを取り上げて、少し敷衍してみよう。

 

1つ目は、リスクに関する考え方である。

オリジナリティがテーマなのに、何故リスクの話?となるかもしれないが、オリジナリティを発揮することは通常の考え方や方法論を超えるということに他ならないので、「普通」をやめるというリスクが伴うことから、実は両者は密接に関係しているのである。

例えば、組織に所属している人がオリジナリティを発揮しようとすると、組織にいる他の多くの人とは異なる考え方を提示したり、行動を取ったりすることになる。結果として、組織の論理に盾突く人間として昇進が遅れたり、場合によっては組織を追われたりするリスクがあるということだ。

 

一般的なイメージでは、オリジナリティを発揮する人はリスクを積極的に取っていく人、というものがあるのではないかと思う(僕もそういうイメージを持っていた)。

ビジネスの文脈で言えば、起業家は積極的にリスクを取って、オリジナルな事業やサービスで世界を変えていく、といったイメージだ。

しかし本書を読むと、そのイメージは間違っていることがわかる。起業においても、実は現職に留まって並行して事業を興す人の方が、自分の全ての時間を新たな事業に投じている人よりも成功確率が高いというのである。

人生全体のリスクを分散し、バランスさせることで、新たな事業においてより積極的にリスクを取っていける(つまり、安定的に働いて稼ぐことができる仕事があるおかげで、起業において安心してリスクを取っていける)という、事業単体のリスクの取り方だけでなく、人生全体でのリスクの取り方を考えることが重要ということだ。

 

起業家のようなオリジナルな人を見ると、リスクテイカーで自分とは違う人種だと思ってしまいがちだが、実は着実な足がかりを作りながら取れるところでリスクを取っていくという、常識的なアプローチをとる人だということが見えてくるポイントであり、「誰もが『人と違うこと』ができる時代」という本書の副題に現実味が帯びてくる。

僕のようなパンピーにも勇気を与えてくれる、有難い話だ。

 

2つ目は、多産とオリジナリティの関係性である。

オリジナリティを発揮するためには、絞り込んだ「これだ!」というアイデアが先にあり、そのアイデアを磨き込んでいくイメージを持ちがちだが、実態は異なると本書では説明されている。

実は、オリジナルな人だと誰もから認められるようなすごい人であっても、世に出してみたときに、何がウケるのかはわからないという。

そこで重要になってくるのが、アウトプットの総量を増やすこと、つまり多産になるということだ。

何がウケるのかがわからないのであれば、とにかくウケそうなものを沢山作り、世にぶつけていくしかない。

 

最近では多産の重要性を語る人は多く出てきているし、実際に重要な要素なのだと僕も考えているが、多産が単に重要と指摘するだけでなく、実はオリジナリティと密接に関わっているということを改めて認識できたことは、僕にとって大きな収穫だった。

 

3つ目は、先延ばしがオリジナリティに貢献するという点である。

一般的には、先延ばしは推奨されることではないとされている。仕事のできる人はメールの返信や意思決定が早く、タスクを後に残さないというのはよく聞く話だ。

生産性という観点では、先延ばしが貢献できる点は少ないだろう。

 

一方で、創造性という観点では、先延ばしは大きな意味を持つ。

頭に浮かんでくる様々なアイデアや、触れる情報を脳にプールしておくことで、それぞれの要素が関連しあい、短期的に成果を出そうと無駄なく考え行動しようとしている時には思いつかないような創造性の高い考えを生み出すことができるという。

イデアを「熟成」させることで新たな創造につながるというわけだ。

 

もちろん、常に何もかもを先延ばししていたら何も話が進まなくなってしまうので、それは推奨されないだろう。

生産性が求められるシーンと、創造性が求められるシーンをそれぞれ見極め、必要に応じた時間の使い方ができることが重要ということだ。

 

僕にとっては特に2点目の「多産」であることが決定的に欠けている要素なので、今後はよりオリジナリティ溢れる存在を目指してどんどんアウトプットしていきたいと思う。