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学びの集積

0008冊:良い戦略、悪い戦略(リチャード・P・ルメルト著、日本経済新聞出版)

良い戦略、悪い戦略 リチャード・P・ルメルト(著/文) - 日本経済新聞出版社

超良書。ビジネスにおける戦略とは何かを知りたければ、本書を読むことを強くお勧めする。販売価格は2,000円+税だが、僕は本書が3倍の値段であっても躊躇なく買う。それくらい素晴らしい本だ。

 

但し本書は、「戦略の作り方パッケージ」を教えてはくれない。実務的な戦略策定手続きや、良い戦略を作るためのウルトラC(そんなものは存在しないが)を求めている人は、肩透かしを喰らってしまう。
しかし、それは本書が戦略の本質を語っているからである。著者も本書で何度も指摘しているが、本当の戦略(良い戦略)はパッケージ的に出来上がることはない。そんなことができると語っている人や本があれば、それはまやかしだ。

良い戦略はかならずと言っていいほど、このように単純かつ明快である。パワーポイントを使って延々と説明する必要などまったくないし、「戦略マネジメント」ツールだとか、マトリクスやチャートといったものも不要だ。必要なのは目の前の状況に潜む一つか二つの決定的な要素―――すなわち、こちらの打つ手の効果が一気に高まるようなポイントをみきわめ、そこに狙いを絞り、手持ちのリソースと行動を集中すること、これに尽きる。
(良い戦略、悪い戦略 序章「手強い敵」より抜粋)

 

本書では、ビジネスに限らず様々な領域の戦略について、良い例・悪い例をそれぞれ数多く取り上げ、その中にある戦略の構造を分析している。そうした分析を通して、「良い戦略とはこうあるべきである」という指摘は行うが、「良い戦略はこうすれば立案できる」とは言わない。事例を見れば明らかなことだが、良い戦略とは各組織が置かれたコンテキストと組織の持つ特性に強く依存しており、それらの要素を綜合的に考えることで導き出されるものだからである。良い戦略に「一般解」はなく、全て「特殊解」であるということだ。

 

それでは本書は戦略の事例を集めただけの本なのかというと、全くそんなことはない。「こうすれば良い戦略ができますよ」という魔法のスパイスはなくとも、良い戦略を立案する上での要諦を示すことはできる。本書では、戦略の大家である著者が「良い戦略の要諦」を余すことなく示してくれている。

私見だが、戦略という分野について今後経営学の観点から研究が進んだとしても、「これを使えば良い戦略が立てられる」というようなツールが開発されることはなく、結局は良い戦略を立てるためには優れた戦略家が必要となるのだ。

そして、優れた戦略家になるためには、常に自身の思考力と判断力を鍛え続けることが求められる。こういった力は一朝一夕で身につくものではなく、ましてはちょっとした研修で習得できるものでもない。だからこそ各企業は、将来の自社を支える経営人材を育成するために「これは」という人材を見つけ出し、経営経験を積ませて全社の命運を左右するような意思決定ができる人材へと磨き上げるのである。

 

これほど素晴らしい本が2,000円+税で読めることに感謝。