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学びの集積

0009冊:限りある時間の使い方(オリバー・バークマン著、かんき出版)

限りある時間の使い方 オリバー・バークマン(著/文) - かんき出版

あらゆる書店で平積みされており、NYTやWSJでも絶賛されているとの触れ込みが帯に書いてあり、テーマ的にも面白そうだったため購入。

タイトルには「限りある時間の使い方」と記載があるものの、本書を読めばわかるが、厳密には「時間の使い方」を論じた本ではない。「ハイパフォーマーは朝に○○を必ずやっている」「有意義に時間を使うための習慣化の方法」のようなライフハック的内容を求めると裏切られるので注意が必要だ。

但し、本書が提示している内容は世に溢れる軽薄なライフハックとは一線を画すものであり、人生という有限な時間をどう使っていくべきかという点についてより本質的な問いかけを求めている方には、良い意味での裏切りを感じさせてくれる本である。


物事を論じる場合には、大きく分けて2つのアプローチがあると僕は考えている。

1つは、対象物自体を論じる方法だ。対象物を客観的なものとして捉え、観察し、定義していく。本書が取り上げている「時間」というテーマであれば、時間を1日24時間に区切られるものとして客観的に捉えて論じていくことになる。
世にある「時間」をテーマとした多くの本や意見は、このアプローチをとっているものだろう。ライフハック本も、時間を24時間という客観的な対象として置き、それを如何に効果的に扱えるかを語っているものであり、こちらのアプローチに分類される。

一方で、もう1つのアプローチでは、テーマとする対象物を我々が「どのように認識するか」を論じる。主観的なアプローチと言ってもよい。物事を認識する方法は人によって千差万別であり、人は全く同じものを見ていても異なるものを理解し、認識している。こちらのアプローチでは、その認識の方法を論じるのである。


本書は、「時間」(もっと言えば、我々一人ひとりに与えられた有限な人生そのもの)に対して、後者のアプローチで迫っていく。冒頭で「時間の使い方を論じた本ではない」とお伝えしていたのはそのためだ。


この本を読むと、自分が普段の生活で時間というものを如何に無機質な対象として扱っているのか、そしてついついその時間を「ハック」しようと躍起になっているかがわかる。
せっかくの休みの日なのに、午前中をダラダラと目的もなく過ごしてしまった。午後は有意義に使いたいが、今から何ができるだろうか。そう考えているうちに夕方になり、明日こそは有意義に時間を使おうと考えてYoutubeで生産的に過ごしているVlogを見てモチベーションを上げる --- 多くの人が似たような経験をお持ちなのではないか(ちなみに僕は結構な頻度でこんな経験をしている)。

この本を通じた著者からの問いかけは、「休日を有意義に過ごせていない」と感じてしまうのは、「生産性高く過ごす」ことができていないからではない、ということに気づかせてくれる。僕らの人生への満足度は、生産性の高低で決まっているわけではない。当たり前のことなのだが、日々忙しく過ごしていると忘れてしまうことだ。

重要なのは、僕たちが人生という限りある時間を「いかに目を背けずに真正面から認識できるか」ということであり、そしてその上で「どんな時間の過ごし方をすると本当の人生を過ごしていると感じることができるか」をしっかり理解することである。


本書のタイトルを見て、ついついライフハックを欲してしまった人にこそ読んでもらいたい一冊だ。