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学びの集積

0015冊:センスは知識から始まる(水野学著、朝日新聞出版)

センスは知識からはじまる 水野 学(著/文) - 朝日新聞出版

クリエイティブディレクターの著者が、「センス」という誰もが知っているが実はよくわからないものを説明し、その磨き方を語っている本。非常に平易に書かれており、本を読むのに慣れている人なら1時間もかからずに読めるが、内容が薄い本ではなく、むしろ難しい言葉を使わずにセンスという捉えどころのないテーマを扱っている良本である。

本書に通底している素晴らしいポイントは、「センスとは後天的に磨くことができる力である」という考えに立って、自分にはセンスがないなと感じている人に寄り添って書かれていることだ。タイトルにもある通り、センスとは知識から始まるものであり、天から急に降ってくるものではないということが実際の仕事と繋げて説明されており、「センス」というものがどう成り立っているのか、本書を読むことでその構造を掴むことができる。

また、「センスを発揮する」というとついつい、誰もが思いつかないアイデアを生み出すことをイメージしてしまうが、本書ではセンスの本質はそこにはないとされている。重要なのは「普通」「誰もが見たことあるもの」を知り、その延長線上に「センスのあるもの」が生まれてくるという。何故なら、あまりに突飛なものはマーケットに受容されないからだ。受け入れられる範囲でありながら、少し違うものを打ち出すことが重要だということだ。センスというものが、一般的に思われているような感覚的な力ではなく、マーケットのニーズをしっかり掴んだうえで知識を持って積み上げていく、かなり論理的な能力だということがよくわかる。

本書を読んで感じるのは、インプット総量の重要性だ。「センスは知識から始まる」というタイトルの通り、センスを発揮するにはその裏に膨大なインプットが必要ということとなる。本書に出てくる著者の仕事の例を読んでも、その仕事が圧倒的なインプットに裏打ちされていることが強く感じられる。
僕は、ある程度の難易度が求められる仕事には「質が量に転換する」という側面があると考えている。他人から見ると大したインプットもなく余裕で仕事をこなしているように見える人も(いやそういう人に限って)、必ずと言っていいほど驚くほどのインプットに支えられている。
一方でただ漫然と多量の情報を浴びているわけではない。それではただネットサーフィンをしたり、SNSを見たりしていることと変わらなくなってしまう。重要なのは、自分の関心や興味を軸にして自発的・能動的にインプットを発掘していくことであり、それによって自分の中に複雑かつ多層的な情報ネットワークが出来上がり、結果として「センス」が表出するのではないかと思う。

プログラミングやファイナンスといったスキルだけでなく、そういったスキルをどう生かすかというセンスを磨きたいと考えている人にはぜひ一読をお勧めしたい。