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学びの集積

0017冊:世界は宗教で動いている(橋爪大三郎著、光文社未来ライブラリー)

社会学者の橋爪大三郎キリスト教イスラム教、仏教といった世界の主要な宗教を取り上げて、それぞれがどのように世界を認識しているかという視点でエッセンスを解説している本。実際の講義をベースに作られているため、一問一答形式で書かれている。

専門家ではない僕のような人間が入門書として読むにはうってつけの良書だ。何故なら、とにかくわかりやすい。曖昧なところがなく、端から端まで明確に理解できるように書かれている。橋爪節全開という感じで、質問者からの問いにスパッと答えていく。

何故ここまでわかりやすいのかと考えてみると、次の2つの要素があるのではないか。

まず1つ目として、著者は各宗教のウチの論理を知った上で、ソトの宗教と比較し、それぞれの立場や成り立ち、視点の違いを踏まえた上で説明している点だ。本書よりも各宗教を詳しく説明している本は多くあるし、専門的な知識を持った方からすればあまりに単純化して間違った知識を伝えているように見える部分が本書にはあるのかもしれない。ただ、いくら正確に書かれていても、詳細に書かれていても、超アマチュアの僕のような人には内容がうまく掴めないことがある。それは多くの場合、1つの領域の「ウチの論理」を「ウチの言葉」で説明されているからではないかと僕は考えている。

僕のような読者が知りたいのは、「そもそも何故そんな考え方をしているのか」というwhyなのだが、「どんな歴史があるか」「何が重要な教えか」といったwhatばかりを説明されても、何だかエッセンスを理解できた感覚を得られない。本書が提示しているのはまさしく「ウチの論理」、whyそのものであり、しかもそれを僕らが普段使う言葉で伝えてくれる。だからこそわかりやすい。

2つ目は、ハッキリとスタンスを取って質問に答えてくれている点である。講義形式なのだから当たり前だろうと思われるかもしれないが、これは僕らが考える以上にスゴいことだ。

何故なら、宗教という非常に複雑な知的営みにおいて、質問者が無邪気に投げかけてくる問いは、本来ならば様々な前提知識を提示した上でようやく答えられるくらいなもので、専門的な知識を持たない人にパッと答えることなどできないはずだからだ。しかも著者は学者であり、問いに対してできるだけ正確を期して答えたいという欲求も働くはずである。

そんな中、本書で著者は「あえて」シンプルに答える。正確を期すならばさまざまな答え方をせざるを得ないはずの中、「あえて」他の選択肢を捨象して1つの明確なスタンスをもって答える。全ては質問者に、そして読者に理解を促すためだ。専門家からの批判はあるかもしれないというリスクを抱えても、アマチュアの人たちに知を与えるという目的のために歩み寄ってくれている。

決して内容が薄くはないが、本当にわかりやすい入門書として、宗教に関心のある方に本書は本当におすすめだ。