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学びの集積

0035冊:原始仏典(中村元著、ちくま学芸文庫)

 

原始仏典(中村元著、ちくま学芸文庫)※筑摩書房HPより引用

仏教思想・インド哲学の大家である中村元氏が、原始仏教の経典を取り上げ、その要点を平易に解説している本。仏教の経典を自分で一から読み下していくことに高いハードルがある僕のようなアマチュア読書家にはぴったりの内容だ。

本書の素晴らしい点は、原始仏典を通じて釈尊の教えの「こころ」を感じられることだ。仏教と聞くと、僕などはついつい難しくて浮世離れした教えを説いている印象を持ってしまうのだが、原初の教えは、釈尊という1人の人物が説いた誰にでもわかりやすいものだということが本書を読むとよくわかる。西洋哲学にも似たところがあるが、最初に考えられていたことは本質的ながらごく簡潔な問いである。然し、時代が進むにしたがって、当初の問いを出発点としてどんどんと教義が複雑化・高度化していき、普通の人(はもしかしたらわかるのかもしれないが、少なくとも僕)が聞いてもチンプンカンプンな状態になってしまうのである。

そういった複雑な知識体系の壁を前にして後世に生きる僕たちが最初にやるべきことは、「こころ」を掴むことである。つまり、「そもそも何を考え、どんな問いに答えを出そうとしていたのか」という原初の状態に立ち返り、複雑な知識体系に血を通わすことが必要だ。そうすることで、専門用語に惑わされることなく、地に足をつけて理解ができるようになる。ある種のヒューマニティの復権だ。

基本的には、源流となる書物に立ち返っていくことで、「こころ」に近づけることが多い。しかしここで問題となるのは、時間的隔絶である。源流となる本は多くの場合、遠い昔に書かれている。言葉は当然変わっているし、時代がかけ離れていることで僕らとは全く異なる文化や背景を有しているため、書き手が想定している前提条件が現代のそれとは大きく異なる。「本当は一番理解しやすいはずなのに、読めない」という状況に陥る。こうして僕らは取っ掛かりを失い、なんとなく「こころ」が掴めないままになってしまうのだ。

だからこそ、本書のような存在は僕らにとって貴重である。こういった本があることで、僕らは複雑化した知識体系に挑んでいく取っ掛かりを掴むことができる。とりあえず仏教について学んでみたい人だけではなく、これからほかの仏教本を読もうとしている人にも、その後の足掛かりとなる本としてお勧めしたい。