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学びの集積

0037冊:オスとは何で、メスとは何か?(諸橋憲一郎著、NHK出版新書)

オスとは何で、メスとは何か? 諸橋 憲一郎(著/文) - NHK出版

少し前に本屋で話題の書として展開されていたので気になって購入。オス(男)とメス(女)という、何となく常識として受け入れてしまっている二元論を打ち壊してくれる本。

本書を読む前は、オスとメスという生物的な区別は明確なものだと無意識に考えてしまっていたが、本書を読み進めるうちに、その境目がかなり曖昧なものであり、両社は非連続ではなく連続的に繋がっているものなのだ、ということがよくわかってきた。

例えば、魚類は身体的にもオス/メスの境目が相当曖昧だという。「ファインディング・ニモ」で有名なカクレクマノミという可愛らしい魚はご存じの方も多いと思うが、なんと群れの一番大きな個体がメスに、二番目に大きな個体がオスとなり、その他の個体は性を持たない未成熟個体となるそうだ。これだけでも面白いのだが、更に驚くべきは、何かの拍子に一番大きな個体(メス)が群れからいなくなってしまうと、二番目に大きな個体(オス)が群れの中で一番大きな個体となるので、メスに転換する。そして未成熟個体のうち、最も大きい個体がオスとなるのだ。小さな魚のなんてことない群れの中でスゴイことが起きている。

それは魚の話でしょうと思うかもしれないが、哺乳類や昆虫でもオス/メスの区別をつけることが難しい例が本書では多々紹介されている。最もハッとさせられたのは、人間も一生の中で性の「度合い」が変化するという指摘だ。生まれたとき(赤ちゃんの状態)はオス/メスの区別が曖昧だが、思春期を経てオス/メスの特徴が顕著となる。その後、年をとるにつれて徐々に性の度合いが低くなっていく。言われてみればその通りなのだが、これまでは僕は年齢というものを折り返しのない一直線な道として認識しており、性という観点で生まれてから老いるまでの間に折り返しが発生しているという考え方は新鮮なものだった。

本書を読むと、これまで生物的な性をオス/メスという2つの軸で捉えていたのは、なんて解像度の低いアプローチだったのだろうという思いに駆られる。読みやすく、一度読むと生物に対するパラダイムが変わる本書は、全ての方にオススメだ。