nano-blog

学びの集積

0039‐40冊:ネット興亡記 1・2(杉本貴司著、日経ビジネス人文庫)

文庫で上下巻の計2冊。添付の画像は上巻。本屋で目にし、楠木健さんと富山和彦さんが推薦という帯に惹かれ、中身をパラパラ見たら結構面白そうだったので購入。

今はもう有名人となっているIT業界の起業家たちが、若いころにどんなビジネスから手を付け、紆余曲折を経てどのように事業を成長させていったのかを知ることができる。著者が日本経済新聞の編集委員であり、かなり細かなところまで関係者へのインタビュー等で裏をとって客観的に記載されており、当事者によるポジショントークめいたものは登場しないため、事実関係が理解しやすい。

客観的に記載されていると言っても、決して無味乾燥な内容ではないところが、本書を読み物として面白くしているポイントだ。各人物がどんな思惑を持って行動し、興奮や失意といった感情が押し寄せ、そういった動きがIT業界をどう形作っていったのかがしっかり描かれている。「血沸き肉躍る」という表現がぴったりな、現実に起きたドラマの一端を味わうことができる。

本書を読んで最も感銘を受けたのは、登場する起業家たちの流れを読む力、自らが時代を創っていくという思いの強さ、そしてバイタリティの高さだ。複数の登場人物が、「インターネットを初めて見たとき、これは時代が変わると確信した」という旨の発言をしているのだが、当時彼ら/彼女らと同じようにインターネットに触れた人は大勢いたはずだ。そのうち、どれだけの人が「これから」インターネットが世界を変えるという確認を持てただろうか。多くの人は具体的なイメージが持てなかったり、現状のシステムが優位であるというバイアスを持ってしまったりしていたのではないか。その上で、確信を行動へと昇華させ、事業として落とし込めた人は更に少数であったに違いない。

一方で、著名な起業家も一人の人間であるということも見えてくる。最初は何も成し遂げていないただの若者であったし、失敗や裏切りで傷つき、成功から転落することもある。メディアを通して映し出されている、どこか別の世界にいるスーパーな人たちというアバウトな認識ではなく、才能に溢れているかもしれないが自分達と変わらない部分もあるということを理解することで、彼ら/彼女らが少なからぬ影響を与えている社会・経済活動も、また違った見方ができるだろうと思う。

日本IT業界の歴史をより理解できる本として、また起業家のすごさと大変さの一端を知ることができる本としてオススメ。各パートが独立しているので、気になる部分だけをピックアップして読むのもアリだ。