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学びの集積

0042冊:生涯投資家(村上世彰著、文春文庫)

生涯投資家 村上 世彰(著/文) - 文藝春秋

「村上ファンド」の名で一世を風靡した村上世彰氏が自ら筆を執り、自身の投資哲学やこれまでの活動を記した本。

著者の村上世彰氏というと、2000年代前半あたりは特にメディアに取り上げられることが多く、(僕は当時何も知らないガキんちょではあったが)物言う株主としてどちらかというとネガティブなトーンで注目されていることも多かったように思う。然し、本書を通して見えてくる著者の姿は、メディアを通じて伝えられる姿とは全く別物だ。

本書を通じて感じられるのは、「ファンドという資本市場のプレイヤーとして日本企業に働きかけることによって、効率的に使われていないお金を循環させ、日本市場全体を活性化させる」という信念を著者が持ち続け、様々な活動をしてきていることである。当時はまるで金の亡者のように報道されていた記憶があるが、(もちろんファンド運営者として必要な利益はしっかり追求しつつも)本書を読むと著者が目先の利益のために動いてきたようには決して感じられない。

著者が信念として掲げている考えは、2023年現在では少なからぬ人が「真っ当だ」と答えるようなものであるが、株主の論理を突き付けるような事例がほとんど見られなかった当時は、残念ながら非常に異質で攻撃的な考えに映ってしまったようだ。当時の「良識」と、村上氏の追求した「べき論」には大きな乖離があったため、氏は異質な人として村から排除されてしまったのだろうと想像する。

「インサイダー取引で逮捕された人」という印象で著者を認識していて、本書を敬遠している人もいるかもしれない。逮捕という事実はもちろん変わらないが、著者が優れた投資家の目線を持った人物であることは変わらず、一度フラットな視点で本書にあたってみると、少なからず学びがあると思う。