「リスキリング」という言葉の注目度がどんどん上がっている。政府も5年間で1兆円をリスキリングに投じるそうだ。
2023年度予算案では岸田政権の看板政策「人への投資」を強化し、賃上げへの好循環をつくり出すことを目指す。5年間で1兆円を投じる計画のうち、23年度は社会人が新たな職務に就くため必要な能力を習得するリスキリングや非正規社員の処遇改善、労働移動を促す取り組みを加速させる。
出典:リスキリング、労働移動を促進 賃上げへ「人への投資」強化―来年度予算案:時事ドットコム (jiji.com)
寿命が延び、多くの人が定年を過ぎても働くことが当たり前になっていく中、新たなスキルを獲得し、移り変わる社会を生き抜いていくことは素晴らしいことである。助成金を利用して、スキル研修プログラム等を受講することで、効率的にリスキルしていける制度は必要だと思う。
しかし、個々人がリスキリングを考える上で最も頭を使うべきことは、「何をリスキルするか」や「どのように効率よくリスキルするか」ではない。「そもそも、本当にリスキルすべきかどうか」ということである。
「こいつ何言ってんの?」と思われるかもしれないが、原点に立ち返って考えてみると、多くの人は、会社や社会への価値提供の対価として、お金を受け取るために働いているはずだ。その中でリスキルするということは、今の仕事に先行きが感じられなかったり、十分なお金を得られなかったりするので、もっと良い仕事に就きたい、もしくはより良い待遇を受けたいと思って学びなおすということだと思う。上で書いた通り、この考え自体は良いものだ。
一方で、「もっと良い仕事に就いたり、より良い待遇を受けたりするために、リスキリングすることが本当にベストな方法なのだろうか?」ということは、よく考えなければならない。この世で最も貴重なものは僕ら1人1人に与えられている時間である。そして、分野によって差はあれど、リスキリングにはかなりの時間が掛かる。貴重な時間をリスキリングに費やすことが、本当に目的を達成するための最短距離なのだろうか?という問いは、人生を無駄にしないためにも重要だ。
リスキリングに費やす時間分、現職の延長線上でチャレンジングな仕事に挑戦する方がベターかもしれない。もしくは、兼業して現職の強みを生かせる新たな仕事に取り組んだ方が、実りがあるかもしれない。リスキリングだけが新たな挑戦への手段ではない。あらゆる可能性を検討してみるべきだ。検討したうえで、やっぱりリスキリングして新たな領域に踏み出そうということであれば、もちろんOKである。
もちろん、単純にステップアップすることだけが新たなことを学ぶことの価値ではないという考えもあるだろうし、僕もその通りだと思う。然しその場合も、「給料を増やしたり、キャリアアップするだけならリスキリングよりも良い方法があるが、新たな分野を学びたいという欲求を満たすために敢えてリスキリングしている」ということを認識しながら取り組むことが大事だ。ある種の非合理な判断をしているが、自分はそれで納得しているという感覚を持てていないと、後でこんなはずじゃなかったと思うことになる。
流行りのスキルを身につけることに時間を無駄にしないために。