nano-blog

学びの集積

0044冊:直感力(羽生善治著、PHP新書)

直感力 羽生善治(著/文) - PHP研究所

将棋のトップ棋士である羽生善治さんが、これまでの棋士人生で磨き上げてきた直感力について書いた本。

羽生さんの書かれた本では、「決断力」や「大局観」も有名で版を重ねており、こちらも名著には違いないが、僕はこの「直感力」が最も面白いと思う。何故なら、僕も頭脳労働をする職業の端くれとして、思考力を発揮する上で直感がいかに強力な武器かということを日々強く感じている中、本書はおそらく日本でも最も頭脳を使う職業であろう将棋棋士(の中でTop of top)の視点から直感力というものを真正面から捉え、説明している本だからだ。

将棋は1つの場面で約80通りの可能性があるそうで、著者はそのうちの77、78手は捨ててしまい、残りの2、3手に直感を使って瞬時に絞り込んでしまうという。これは、これまで経験したことや学んだことが作用して、その瞬間に直感が働いていると本書では説明されている。本書では当然将棋の話に絞って説明されているわけだが、この点は将棋に限らず他の分野にも通ずる非常に重要なポイントが含まれている。

 

トップ棋士である著者のレベルには全く至らないものの、僕も仕事で自分なりの仮説を構築する際に、まずは直感で大体の方向性を決めている。もちろん、ロジック面での検証は行うが、それはあくまでその仮説の筋が良いかどうか、もしくは致命的な間違いを犯していないかどうかを検証するために行うものだ。これは即ち、いわゆる「仮設思考」を行なっているということに他ならない。

一方で、いつどんな場面でも直感が正しく働くわけではない。自分がある程度経験していたり、考え抜いたことのある事柄や、そこから導き出されるパターンの蓄積が自分の中にある場合に限り、直感的に筋の良い仮説を出すことができる。

そのため、普段の積み重ねが非常に重要だ。仮説を出す段になって努力しても遅く、これまで自分がどれだけの積み上げをしてきているかが、ある一瞬で直感を発揮できるかどうかを決めるのではないかと僕は思う。

「思考」して「仮説」を出す。「仮説」を出すために「直感」を用いる。「思考」と「直感」は相反するものとして捉えられることもあるが、間違いなく直感は思考の根幹をなしているというのが、僕の感覚だ。

 

中学生でプロ棋士になってから数十年に亘り、日々の対極において文字通り自身のキャリアを賭けて戦い続けてきた人が記した言葉には重みがある。「思考」というものに少なからぬ関心を抱く人であれば、本書はきっと面白さを持って迎えられるはずだ。