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学びの集積

マネジメントへの報告は何故上手くいかないのか?

会社で働くようになってから数年経つと、僕は段々と「組織において高い階層にいる人(=マネジメント)」へと報告する機会が増えてきた。が、全然上手くいかない。相手の聞いてきていることが、なんだかこっちの報告したいこととズレているような気がするし、こっちの説明で相手が納得しているようにも思えない。「マネジメントへの報告は何故上手くいかないのか?」という問いが、その後何度も僕の中に浮かび上がってきた。

最初に言ってしまうと、この問いに対する僕の(少なくとも現時点での)答えは、報告を受ける側(マネジメント)の知りたいことと、報告をする側(担当者)の伝えたいことが基本的にマッチしないから、ということに尽きるのだが、その中身が重要なので、考えていることを少し整理してみようと思う。

 

■報告する側の心理

報告する側は、基本的にマネジメントに対して全ての経緯や情報を伝えたいと考えている。それには以下の理由があり、報告する側としては実は合理的な行動である。

  • ちゃんと全ての経緯や情報を伝えておかないと、後で「これ聞いてないぞ。なぜこんな大事なことを報告しなかった!」と言われる(過去言われたことがある)。面倒なので全部伝えておきたい
  • マネジメントの意思決定を仰ぐうえで、情報は多ければ多いほど意思決定の正確さが増す(はず)。勝手に情報を絞って意思決定をミスリードしてしまうことを避けるため、なるべく多くの情報を伝えたい
  • マネジメントは、自分達では知りえない会社の状況や、取引先との過去経緯等を把握しており、些細な情報やちょっとした案件経緯が実は重要な要素となり得たりする。やはり全部伝えておきたい
    等々…

要は、①情報の取捨選択のハードルが極めて高い、②故に、勝手に情報を捨象することはマネジメントによる健全な意思決定を阻害する可能性があるため、そんな変なリスクは取りたくない、ということに集約される。繰り返すが、これは「ビビり」だと言っているのではなく、報告する側としては非常に合理的な行動である。

 

■報告を受ける側の心理

一方で報告を受ける側は、以下の理由から意思決定に必要な情報となる「結論」「要点」だけを知りたい、と考えている。これも、報告を受ける側としては合理的な行動である。

  • 重要な意思決定を何十何百と行う必要があるため、1つ1つを深堀りしていくことは時間的にもキャパシティ的にも不可能(マネジメント層になるくらいなので超人的に仕事ができる人も多いが、どんなに優秀でも使えるリソースは有限である)
  • 時間的/キャパシティ的に制限があるが、一方で重要な意思決定は次から次へとやってきて、放り出すわけにはいかない。当然の帰結として、諸制限がある中でもその時々で限りなくベストに近いと思われる意思決定をしていくしかない
  • 限りなくベストに近い意思決定をしていくためには、数限りなくある情報の中で特に重要だと思われる情報を基に意思決定していくことが合理的である
  • そして、その取捨選択を全て自分で行う余裕はない。できることは、優秀な部下をつけ、彼ら/彼女らを信じ、報告してきた情報を基に意思決定することである(当然、自身で「現地現物」をして常に1次情報を得る努力をする必要はあるが、全ての1次情報を自分で得ることはできないため)

要は、限られた時間の中で、非常に広い領域をカバーして自身の責任の下で意思決定をしていく必要があるから、全てに完璧を求めることはできない。優先度をつけたり他人に任せたりしながら、完璧ではなくても限りなくベストに近い状態に近づけていくという考えを持っている、ということだ。

 

■両者の違い

簡単にまとめると以下のような感じだ。基本的なスタンスが異なるので、そのままだと効率的な情報交換/意思決定ができなくなってしまう。

(報告する側/受ける側の違い)


■それで結局、報告する側はどうすべきなのか

このように違いがあるので、多くの場合報告する側が工夫をする必要があるのだが、いくつか工夫をする上でのポイントがある。あなたの周りにも、「大体同じことを話しているはずなのに、なぜかこの人が話すとマネジメントへの報告がうまくいくなぁ」という人がいないだろうか。そういった人たちは、これらのポイントを押さえているはずだ。

 

(報告前の準備段階)

  • まず、自分がもし意思決定者側なら、報告する案件についてどのような意思決定を下すだろうかと想像してみる。もちろん、マネジメントと完全に同じ考えを持つことはできないが、考えうる限りでベストな自分なりの解を考えてみる
  • 次に、その意思決定を下すために絶対に外せない、最低限知っておくべき情報を絞り込む。これが、マネジメントの最も知るべき情報となる
  • 続いて、上で絞り込んだ情報の詳細を説明したり、前提を示したりするサブの情報を整理する。これが、マネジメントがより深く知りたいときにフォローするための情報となる

(報告時)

  • 準備段階で整理した順に伝える。つまり、以下の順である。
    1. 意思決定の案(結論)
    2. その結論を支える重要情報
    3. 更に詳細の情報
  • 始めに説明するのは、1と2のみ。3は質問が出たり、会話の中で深堀りが必要となった場合に、適宜情報を出していく

 

■そもそも意思決定の案を外してしまっていたらどうするのか

正直、外してしまうケースはよくあるはずだ。意思決定には、「正しさ」だけでなく「嗜好」も介在するため、100%正確に的を射抜くことは難しい。

然し、上記ポイントを押さえていれば、実は外しても大丈夫なことが多い。何故かというと、マネジメントの頭の使い方に合ったコミュニケーションをしているため、マネジメントと報告者とでキチンと会話が成立するからだ。

マネジメントへの報告がうまくいかない場合、その多くが「そもそも話が噛み合ってない」ケースだと思う。上に書いた通り、マネジメントと担当者では考えていること、知りたいこと/伝えたいことが異なるため、元々話が噛み合いにくいのである。

しっかり話が噛み合う形でコミュニケーションできていれば、仮に結論が間違っていたとしても「よく考えてくれていることはわかったが、今回自分はこう考えているのでこうしたい」と、同じ土俵に立ってマネジメントの考えを示してくれるケースも多い。意見が異なることでむしろ新たな視点が生まれ、意思決定の精度が上がることもよくある。(もちろん、あまりに浅かったり、当然考慮すべきその時の状況を考えてない場合には、強い拒否反応が示されるだろう。)

とにかく会話が噛み合うようにし、同じ土俵で議論できる状態に持っていく。これが鉄則である。

 

以上が、僕がマネジメントによる様々な意思決定の場を観察して考えたことだ。これを読んだ方はどう感じるだろうか?

今後変わっていくだろうが、また発見があれば都度自身の考えをアップデートしていきたい。