前編はこちら↓
前編では、「武器の使い方」について説明したので、後編では「武器の使い方をどう磨くか」について僕の考えを説明する。
まず最初に断っておかないといけないこととして、「武器の使い方」は会計やプログラミングのように体系だった学習・研修で身につくものではない。そのため、「これをやっておけば大丈夫」という学習パッケージを示すことはできない。だが僕は、武器の使い方を身につける上で押さえておくべきポイントというものは確実に存在すると考えている。
そんな前提を踏まえた上で、僕の考える武器の使い方を磨く方法は、ズバリ「武器をうまく使うことで、圧倒的な成果やインパクトが創出されるシーンを何度も何度も直接体験する」というものだ。
例えば、とんでもなく仕事ができる上司と一緒に仕事をしていることを想像しよう。その上司は、業界について誰よりも詳しく、ファイナンスにも明るい。間違いなく「強い武器」を獲得している。
しかし、業界に詳しく、ファイナンスに明るいとしても、それだけで仕事のパフォーマンスが確約されるわけではない。仮にいつも評論家的立場で意見を言い、顧客のニーズに寄り添わない言動をする人であれば、単なる「知恵袋」的なポジションとして扱われてしまうだろう。その上司が仕事ができる人たる所以は、別のところにあるわけだ。
そこで、その上司がどのように成果を出しているのかを観察する。いつ、どんなタイミングで持てる武器を使っているのか。どのように武器を組み合わせているのか。武器が足りないと思ったら、どのように不足を埋め合わせようとしているのか。横で一緒に仕事をしながら、そういった1つ1つの動きを徹底的に観察するのだ。
そうしていると、ある時日々の仕事が高い成果に繋がっていることが見える瞬間がある。「あの時にこんなことをしていたのは、こういう風に成果へ繋げようとしていたのか」という発見がある。本当に感動するくらいに、一挙手一投足が成果を出すために繋がっていたのだということがわかる。
この体験を何度も何度も積み重ねる。成果の出し方(武器の使い方)には、唯一絶対のパターンは存在しない。数えきれないくらいの方法が存在する。しかし、全てが完全にバラバラなのではなく、通底する法則が必ず存在する。だからこそ、一度きりの体験ではダメで、何度も体験を積み重ね、自分の頭をディープラーニングさせ、ぼんやりとした法則を自分の手に手繰り寄せるまでパターン認識を繰り替える必要がある。
例えれば、一流のシェフになるために、複数のミシュラン星付きレストランで修行するようなものだ。一流のシェフが料理を作るシーンを一度見ただけでは、そのシェフからどうして感動的な料理が生まれ続けるのかを理解することはできないだろう。数年単位で毎日一緒の厨房に入り、すぐ近くでそのシェフが料理を生み出す姿を見続けることで、自分の中に学びが蓄積され、非線形的に成長が訪れるのである。
このように考えていくと、「誰と働くか」は非常に重要なファクターだ。それは単にレベルの高い/低いだけではなく、自分の想像する理想的な形での成果の出し方をしている人を見つけられるかどうかという点も大きく関わってくる。
もうすでに、「この人と働けば数年後間違いなく自分は変わっている」と確信できるような人を見つけられているのであれば、それはとても幸運なことだ。ぜひそのまま働き続け、喰らいついてでも学びを得よう。
そんな人はまだ見つかっていないという人も多いだろう。そんな場合は、とりあえずは優秀な人が集まってそうな場に身を置くのも良いだろうし、「これは!」という人が見つかったら、思い切ってその人と一緒に働けるように職場や部署を移ってみるのも手だ。とにかく多くのサンプルを取り、観察し、学び取れることがないか考えてみることが大事だ。
上記は直接体験に重きを置いているが、間接体験で学びを蓄積していくことも重要なアプローチである。特にオススメなのは、やはり読書だ。歴史的に名著とされていたり、世間的な評価が高い本は、様々な知識やスキルといった「武器」を用いて、読み手に納得と感動を引き起こすことができている本である。武器の使い方を学ぶにはうってつけだ。
もちろん、直接経験ほどのインパクトは得られない部分もあるが、読書のような間接経験には、直接経験にはない大きなメリットがある。それは、「経験を自分で選択できる」ということだ。
日常では絶対に直接薫陶を受けることができないような偉人や有名人から、彼ら/彼女らが時間をかけて紡ぎあげた教えを、いつでも簡単に受けることができる。これは直接経験にはない圧倒的なメリットである。
仮に、直接経験ではなかなか「これは!」という人に出会えないなという時期が続きそうであれば、読書でどんどん埋め合わせていけばよい。これは個人的な経験として言えるが、読書で積み上げた「武器の使い方」は、現実社会でもちゃんと機能する。
これが僕の考える、武器の使い方を磨く方法だ。僕が自身のキャリア開発の中心に「読書」という活動を据えている理由もここにある。僕にとって読書は、知識や情報を仕入れる活動ではなく、武器の使い方を学ぶ活動であり、何よりも武器の使い方が仕事をする上で重要だと考えているからこそ、読書をし続けている。
ついつい、スキルや知識といった「武器偏重」になりがちな中、武器の使い方にもっとフォーカスしてみるのはいかがだろうか。