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学びの集積

適合力と適応力のジレンマ

適合力と適応力。どちらもとても大事な力だ。この2つは一文字違いで似ているように見えるが、実は全く異なるベクトルの能力であり、この2つの力をどのようにバランスさせていくかが、個々の力を高めていくこと以上に重要となる。

 

僕の定義では、「適合力」とはある環境やルールの中で自分のパフォーマンスを高めていく力のことだ。例えば、Aさんが保険営業でトップの成績を上げている人だとする。Aさんは、保険業界特有の用語や、商品販売のルール、顧客へ説明が必要となる事項には当然精通しているだろうし、その上で誰よりも多くの保険を顧客へ販売するための所作を身に付けているはずだ。「保険営業」という職種に求められる条件に限りなく「適合」しているからこそ、トップの営業として君臨している。

一方で「適応力」とは、環境の変化に対応している力である。先ほどのAさんを取り上げるならば、仮にAさんの営業力が評価されて、とあるSaaS企業でプロダクトを売る仕事に転職したとして、Aさんが新たな環境に対応していく際に求められるのが「適応力」だ。

 

最初に書いた通り、この2つの力は別ベクトルにある。前職ではハイパフォーマーだった人が、転職したらなぜか期待されていたほどの成果を出せないという話はよく聞くが、これは前職に「適合しすぎ」ており、現職に「適応できていない」ということだ。1つのことに適合し過ぎると、柔軟性を失ってしまう可能性がある。僕はこれを「過適合」と呼んでいる。

しかし、適合力が低いのも問題だ。適合力が低いということは、どんな環境でも一定以上の高みに行けないということであり、環境を変え続けてばかりでいつまで経っても一流になれない。これが適合力と適応力の難しいポイントである。

 

それで必要となるのは、当たり前の話だが適合力と適応力をうまく自分の中で共存させることだ。そしてそのためには、押さえるべきポイントが2つあると僕は考えている。

1つ目は、適合するスピードだ。時間をかけてじわじわと1つのことに適合していくと戻るのが難しくなるが、短期間で一気に適合することで、「過適合」を防ぎつつも身を置いている環境で高いレベルに到達することができる。

適合スピードを上げるためには、取捨選択が重要だ。つまり、重要なこと、本質的なことから学んでいき、体得していくということである。「過適合」しないために時間との勝負となるから、余計なことをしている暇はない。

2つ目のポイントは、強制的な環境変化を起こすことだ。環境変化のトリガーを自分なりに設定しておき、トリガーが発動したら有無を言わさずに環境を変える、というルールを自分に課しておく。

トリガーは、わかりやすく期間でもいいし、ある目標を達成したらというような条件でも構わない。とにかく自分の中で「区切り」を設け、その区切りを超えたらスパッと別の環境に身を移すのだ。

トリガーを設定しておくことで、1つ目のポイントとして挙げた適合するスピードを高めざるを得ない状況に追い込む、という副次的な効果も期待できる。

 

スピーディな「適合」と、一定頻度の「適応」を何度か繰り返していると、新たな環境に適合する際の「型」のようなものが自分の中で見えてくる。そうなると後は雪だるま式に経験と知見が積み上がり、実力がついてきて、新しい環境に直面しても「こうすればうまくいきそう」という思考が働くようになる。ここまでくれば、適合力と適応力のジレンマはとっくに解消している。

 

適合力と適応力。この2つを如何にバランスしていくかは組織にとっても個人にとっても重要なテーマだと思うが、これを読んだ方はどんな考えをお持ちだろうか。