米国の日本企業研究者である著者が、日本の戦後の経済発展から、バブル崩壊後に苦悩しつつも少しずつ戦うフィールドを変えて競争力を高めてきた直近の変化に至るまで、経営学者として客観的に観察・記述し、「日本(企業)の良さ」にフォーカスを当ててインサイトを示した本。
この本の素晴らしさは、「日本と日本企業の性質を深く理解する」ことと、「日本を一歩引いた視点から観察し、客観的に記述する」ことの双方を高いレベルで両立させていることにある。この2点は基本的に逆ベクトルの要素であるため、通常は両者が同時に高水準で成り立つことはない。
例えば、日本で生まれ育ち、その文化にどっぷりと浸かった私のような人間にとって、前者は肌感覚で理解していたとしても、その上で後者を実現することは非常にハードルが高い。深く理解しているが故に、どうしてもその文脈から抜け出せなくなるからだ。
人間は楽をしたがる生き物であり、特定の認知パターンを一度覚えると、その認知パターンを活用してあらゆる経験を処理し、「省エネ」で世界を理解しようとする。そこから抜け出して、真に客観的な視点を取り戻すためには、その人間生来の性質に抗う必要があり、相当な訓練が求められる。
一方で、客観性だけを備えていても、日本という高度に文脈依存的な国とそこで栄える企業を、意味のあるレベルで捉えることができず、事情を理解している人間からは物足りない話に終わってしまう。
著者のウリケ・シューデ教授は、それをやってのけた。経営学者としてアカデミックな視点を保持しながらも、数十年に亘り日本企業をつぶさに観察することで、「日本ならでは」を深く理解し、力強いインサイトを引き出した。読みやすく、誰にとってもわかりやすく書かれているが、その裏にある厚みを感じさせる、「深み」のあるビジネス書である。