とにかく自分の生活の生産性を上げるために、「これやっときゃOK」なことをまとめた本。効率よくパフォーマンスを上げ、人生を楽しんでいる人達の「共通言語」をわかりやすく可視化してくれている。
最近はライフハック的な本や情報に溢れているが、個別の要素を書いた本はたくさんあるものの、それぞれを簡潔に説明し、体系付けた本はこれまで意外と出ていなかった。お金の話だけではなく、健康や人間関係といった要素まで、うまく網羅してわかりやすく示してくれている点が本書の特徴だ。
人生においても、仕事においても、ここまでやっておけばOKという「あがり」を決めておくのは重要である。まず「あがり」のラインを決める。そのラインを達成する。あとは楽しむ、自分にとって意味のある時間を過ごす。この順番が大事だが、多くの人はあがり部分を決めず、意識できてないので効率的に物事を進めることができていないのではないか、と僕は思う。
一方で、「あがり」のラインを達成すること、つまり合理的に生きることが、直接的に個人の幸せを形作るわけではない。本書では、3つの資本(社会資本・人的資本・金融資本)を持っている状態を「幸福」、1つも持っていない状態を「不幸」と定義しているが、これはあくまで「人生の土台」の話である。(合理性に振り切っている本書でも、「『人生を合理的に生きなさい』などというばかげた話をするわけではない。そんなものは『マシン(機械)』の人生だ。」と冒頭で指摘されている。)
自分の人生を振り返って、「ああ、合理的で素晴らしい人生だったな」などと愉悦に浸ることができる人はかなり少数派のはずだ。大抵の人は、大切な人と過ごした時間や、自分が好きで取り組んでいた活動、楽しいと心から感じられた瞬間を思い出して、「幸せな人生だった」と言うのではないかと思う。そういう意味で、コスパやタイパといった言葉に代表される「合理性」そのものからは、人生の本質的価値は生まれない。しかし、自由に、自分にとって本質的に意味のある時間を過ごすためには、その土台として「合理性」があった方が良い。自由度が上がるし、お金や健康を気にせずに自分の好きな活動に勤しめるようになるからだ。合理性に対しては、「本質的価値を創出するものではないが、自分の人生を大いに助けてくれる存在」として、うまい距離感を人生を通じて測り、保っていくことが大切である。
合理性との付き合い方を理解したうえで、本書を読もう。合理性の素晴らしさと限界性を理解していれば、本書は「人生の土台」を作るための内容がコンパクトにまとまっており、読んでおいて損はない一冊だ。